近くの院が5,000円だから、うちも5,000円くらいにしておこう。料金を上げたいけれど、患者さんが離れるのが怖い。整骨院・整体院の院長の多くが、こうした感覚で料金を決めています。
結論から言えば、整骨院・整体院の価格設定に、特別な方法はありません。価格は、マーケティングの一部であり、患者さんが感じる価値から決めるものです。価格の決め方には、業種を問わず通用する原理原則があり、それに沿って決めることが、院の利益と患者さんの満足の両方を守る、ただ一つの方法だからです。
この記事では、世界で数千社の価格戦略に関わり、「ザ・プライシングマン」と呼ばれたハーマン・サイモン氏の著書『価格の掟』などをもとに、価格設定の原理原則と、それを整骨院・整体院に当てはめた料金の決め方をお伝えします。
価格設定はマーケティングそのもの
価格はマーケティングの4Pの一つ
マーケティングには、「4P」と呼ばれる基本の考え方があります。1960年に米国のマーケティング学者ジェローム・マッカーシー氏が示したもので、マーケティングを、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販売促進(Promotion)の4つの要素で組み立てるという考え方です。

価格は、この4つの要素の一つです。施術の内容、院の立地や予約のしやすさ、ホームページや口コミと切り離して、料金だけを決めることはできません。価格を決めることは、マーケティングを決めることであり、院の経営そのものを決めることなのです。
価格とは価値である
サイモン氏は、価格で最も大切なものを一言で問われたら「価値」、もう少し言えば「顧客にとっての価値」だと答えています。患者さんが払ってもよいと思う金額は、患者さんの目に映る院の価値を、そのまま映したものだからです。ラテン語の「pretium(プレティウム)」が、価格と価値の両方を意味するのも、そのためだとサイモン氏は述べています。
価格は利益を最も大きく動かす
サイモン氏は、事業の利益を動かすものは、価格、数量、コストの3つしかないと述べています。そして、この3つのうち、価格は最も注目されないのに、最も影響が大きいとしています。
このことは、数字でも示されています。マッキンゼーのマーン氏とロジエロ氏が2,463社の平均的な収益構造を分析した研究では、次の結果が示されています(Harvard Business Review、1992年)。
| 1%改善したもの | 営業利益の増え方 |
|---|---|
| 価格 | +11.1% |
| 変動費 | +7.8% |
| 数量(販売数) | +3.3% |
| 固定費 | +2.3% |
価格をたった1%上げるだけで、営業利益は11.1%増える。反対に、価格を1%下げれば、営業利益は同じだけ減ります。整骨院・整体院は一般的な企業より利益率が高いため、ここまで極端な差にはなりませんが、それでも価格が利益に与える影響の大きさは変わりません。
値付けの3つの考え方
値付けの考え方は、大きく3つに分かれます。そして、その中で原則とすべきなのは、価値から決める考え方です。

| 考え方 | やり方 | 落とし穴 |
|---|---|---|
| 原価から決める | 施術にかかる時間や費用に、利益を乗せて決める | 患者さんが感じる価値と関係がないため、安すぎたり高すぎたりする |
| 競合から決める | 近くの院の料金に合わせて決める | 院の違いが料金に表れず、値下げの競争に巻き込まれやすい |
| 価値から決める | 患者さんが感じる価値に合わせて決める | 価値をつくり、伝える努力が欠かせない |
なぜ価値から決めるのが原則なのか。それは、患者さんが料金を払う理由が、院の費用でも近くの院の料金でもなく、自分が受け取る価値だからです。患者さんは、院の家賃や人件費を知りませんし、知ったところで料金に納得する理由にはなりません。近くの院より安いことも、価値が伝わっていなければ、選ぶ理由にはなりません。
原価から決めると、院の価値が高くても、その価値を料金に反映できず、本来いただけるはずの利益を取りこぼします。競合から決めると、院の違いが料金に表れず、最後は値下げの競争になります。価値から決めてはじめて、院の価値と料金がつながり、価値を高めるほど料金も上げられる経営になります。
ただし、原価と競合を無視してよいわけではありません。原価は「これより下げてはいけない下限」を知るために、近くの院の料金は「患者さんが比べる基準」を知るために使います。原価と競合は、料金を決める材料ではなく、決めた料金を確認する材料です。
良い価格設定の4つの原則
サイモン氏は、良い価格設定には「価値をつくる」「価値を数字で示す」「価値を伝える」の3つが欠かせないとし、さらに経営者の仕事として「価値を保つ」ことを挙げています。この4つを、整骨院・整体院に当てはめると、次のようになります。
| 原則 | 意味 | 整骨院・整体院でやること |
|---|---|---|
| 価値をつくる | 患者さんにとっての価値を、施術そのもので生み出す | 施術の質を高め、検査と説明を丁寧にする |
| 価値を数字で示す | 価値を、目に見える形にする | 姿勢の変化を写真で見せ、痛みの変化を数字で記録する |
| 価値を伝える | 患者さんの価値の感じ方に働きかける | ホームページ、料金表、初回の説明で、院の強みを事実として伝える |
| 価値を保つ | 買ったあとの体験で、良い印象を長く保つ | 通院の間のケアを伝え、良くなったあとも相談できる関係をつくる |
料金を上げられるかどうかは、この4つがどれだけできているかで決まります。価値をつくらずに料金だけを上げれば、患者さんは離れます。反対に、価値をつくり、示し、伝え、保てていれば、料金に見合うと感じてもらえます。
整骨院・整体院の価格設定の8つのステップ
原理原則を、実際の料金の決め方に落とし込むと、次の8つのステップになります。

1. 院の価値と来てほしい患者さんを決める
最初に、誰に来てほしいのか、その人に院のどんな価値を届けるのかを決めます。価格は価値を映したものなので、価値が決まらなければ、価格も決められないからです。同じ施術でも、「とにかく安く体をほぐしたい人」と「繰り返す痛みを根本から何とかしたい人」とでは、感じる価値も、払ってもよいと思う金額もまったく違います。
決めるときは、次の3つを書き出しましょう。
| 決めること | 問い | 例 |
|---|---|---|
| 来てほしい患者さん | どんな悩みを持つ、どんな人に来てほしいか | 繰り返す腰痛に悩む30〜40代の会社員 |
| 届ける価値 | その人に、どんな変化を届けられるか | 検査で原因を示し、再発しにくい体づくりまで支える |
| 院の強み | その価値を、なぜ自院なら届けられるのか | 柔道整復師歴15年、腰痛の患者さんを多く診てきた経験 |
最後に、これを一文にまとめます。例えば、「繰り返す腰痛に悩む会社員に、検査で原因を示し、再発しにくい体づくりまで支える院」です。この一文が、料金の高さを決める物差しになります。
2. 1回の料金の下限を出す
次に、1回の施術でいただく料金の「これより下げてはいけない金額」を出します。価値から決めるといっても、1回の料金が院の費用をまかなえない金額では、施術すればするほど赤字になり、院を続けられないからです。
計算は、2つだけです。

- 1か月に実際に施術できる回数を出す:1日にできる施術の回数に、営業日の数と、予約の埋まり具合をかけます。予約がいつも満杯になるとは限らないので、埋まり具合をかけることが大切です
- 1か月の費用を、その回数で割る:家賃、人件費、材料費、光熱費に加えて、院長自身の生活費(給料)も、1か月の費用に入れます
こうして出した金額が、1回の料金の下限です。図の例では、60分の施術の下限は約5,600円です。これより安い料金にすると、予約が7割埋まっても赤字になってしまいます。30分や90分など、時間の違うメニューがある院は、同じ計算を1分あたりで行い、メニューの時間をかけて出しましょう。分単価の考え方は、整骨院・整体院の単価アップの方法で詳しく解説しています。
3. 近くの院の料金を調べる
近くの院の料金は、合わせるためではなく、患者さんが比べる基準を知るために調べます。患者さんは、料金を見るとき、無意識に近くの院の料金と比べているからです。その基準より高くするなら、高い理由を伝える必要がありますし、低くするなら、その理由もはっきりさせる必要があります。
調べるときは、ホームページとGoogleマップで、近くの院を5〜10院ほど選び、次の表にまとめましょう。
| 院名 | 施術の内容 | 時間 | 料金 | 1分あたり | 強みとして打ち出していること |
|---|---|---|---|---|---|
| A院 | もみほぐし中心 | 60分 | 5,000円 | 約83円 | 駅から近い |
| B院 | 骨格の調整 | 40分 | 6,000円 | 150円 | スポーツのけが |
| 自院 | 検査と骨格の調整 | 50分 | ? | ? | 原因を検査で示す |
料金を時間で割って「1分あたり」で比べると、見た目の料金だけでは分からない違いが見えてきます。そのうえで、自院の価値が、近くの院と比べてどこが違うのかを確認します。
4. 価値に見合う料金を決める
下限と、近くの院の料金を踏まえたうえで、自院の価値に見合う料金を決めます。ステップ1で決めた価値が、近くの院より高いと示せるなら、近くの院より高い料金にしても選ばれます。サイモン氏は、より高い価値を提供し、その分だけ高い価格をいただく「プレミアム価格」の考え方を紹介しています。
決めるときは、次の3つを満たしているかを確認しましょう。
- 下限を上回っている:ステップ2で出した下限より高い
- 違いを説明できる:近くの院より高いなら、その理由を事実として説明できる
- 来てほしい患者さんが申し込める:ステップ1で決めた患者さんにとって、無理なく通える金額である
料金の幅は、3,000円でも1万円でも構いません。大切なのは、来てほしい患者さんが申し込みやすく、受けたあとに「この料金で良かった」と満足できる金額であることです。
5. 料金の段階をつくる
料金は、時間や内容で2〜3段階に分けると、患者さんが自分に合ったものを選びやすくなります。選択肢が1つだけだと「受けるか、受けないか」の二択になりますが、段階があると「どれを受けるか」という選び方に変わるからです。
| 段階 | 内容 | 料金の例 |
|---|---|---|
| ベーシック | 施術のみ(30分) | 4,000円 |
| スタンダード | 検査と施術(50分) | 6,000円 |
| プレミアム | 検査、施術、自宅でのケアの指導(70分) | 8,500円 |
また、行動経済学では、3つの選択肢があると真ん中が選ばれやすくなる「極端の回避」という心理が知られています。院が一番すすめたいメニューを、真ん中に置くのが基本です。
6. 初回の料金を決める
初回だけ大きく割り引く「初回割引」は、おすすめしません。理由は3つあります。
- 院の価値が低く見られる:最初に見た安い料金が、患者さんの中の「この院の基準の料金」になり、2回目以降の料金が高く感じられてしまう
- 料金だけで選ぶ患者さんが集まる:安さに引かれて来た患者さんは、初回だけで来なくなりやすい(整骨院・整体院の初回荒らしもあわせてご覧ください)
- 利益が削られる:価格が利益に与える影響は大きく、値引きはそのまま利益を減らす
割り引く代わりに、初回の検査と説明を充実させ、院の価値を最初にしっかり伝えましょう。例えば、初回は通常より時間を長めにとり、姿勢の写真を撮って原因を説明し、これからの見通しを伝える。その分の料金は、「初回は検査と説明の時間を含みます」と明記したうえで、通常の料金どおりにいただきます。初回で価値が伝われば、料金に見合うと感じた患者さんが、通い続けてくれます。
7. 料金表を作りホームページとGoogleマップに載せる
決めた料金は、料金表にまとめ、ホームページとGoogleマップに載せます。料金が分からない院は、それだけで不安を持たれ、選ばれにくくなるからです。
料金表には、金額だけでなく、次のことを書き添え、価値が伝わる形にしましょう。
- 施術の時間
- 施術の内容(検査、施術、指導など)
- どんな悩みの人に向いているか
- 保険が使えるかどうか(整骨院の場合)
金額だけが並んだ料金表は、患者さんに「どこが安いか」で比べさせます。内容と向いている人が書かれた料金表は、「どれが自分に合うか」で選ばせます。
8. 数字を分析して見直す
料金を決めたら、毎月、次の数字を分析します。価格は一度決めて終わりではなく、価値の高まりに合わせて見直していくものだからです。
| 見る数字 | 分かること |
|---|---|
| 新規の患者さんの数 | 料金が、来てほしい患者さんにとって申し込みやすいか |
| メニューごとの選ばれ方 | 段階のつくり方が合っているか |
| 平均の来院回数 | 料金に見合う価値を感じてもらえているか |
| 客単価と利益 | 院の経営が成り立っているか |
施術や検査を充実させて価値が高まったら、料金を上げることを検討しましょう。上げるときは、価値の中身とあわせて理由を伝えることが大切です。
値下げで利益を保つには何人の患者さんが必要か
料金を下げると、1回あたりの利益が減ります。その減った分を取り戻すには、値下げの前より多くの患者さんに来てもらう必要があります。値下げを考えたときは、その前に「何人増えれば、今と同じ利益を保てるのか」を計算しましょう。サイモン氏も、1件あたりの利益(価格から変動費を引いたもの)と、利益が出る数量の境目(損益分岐点)を使って、値下げの是非を判断すべきだとしています。
計算のしかた
- 1回あたりの利益 = 料金 − 1回あたりの変動費(材料や消耗品など、施術1回ごとにかかる費用)
- 今と同じ利益を保つのに必要な患者さんの増え方 = 値下げ前の1回あたりの利益 ÷ 値下げ後の1回あたりの利益 − 1
例えば、1回6,000円の施術で、変動費が約9%(約520円)の院を考えます。値下げ前の1回あたりの利益は約5,480円です。
| 値下げの幅 | 値下げ後の料金 | 1回あたりの利益 | 今と同じ利益を保つのに必要な患者さんの増え方 |
|---|---|---|---|
| 5% | 5,700円 | 約5,180円 | 約6%増 |
| 10% | 5,400円 | 約4,880円 | 約12%増 |
10%値下げしたら、患者さんが12%以上増えなければ、利益は減ってしまいます。月に300回施術している院なら、月に36回以上、施術を増やさなければなりません。しかも、院長が施術できる時間には限りがあるので、患者さんを12%増やせるとは限りません。値下げは、思っている以上に院の利益を削るのです。変動費の約9%は、経営データ集の個人の院の数字(売上876万円に対し、施術材料・消耗品76万円)をもとにした目安です。
整骨院・整体院の院長から価格設定についてよくいただく質問
近くの院より高くすると患者さんが来なくなりませんか?
価値の違いが伝わっていれば、高くても選ばれます。大切なのは、料金の違いに見合う価値の違いを、ホームページや初回の説明で、事実として伝えることです。
料金はいくらにすればいいですか?
決まった正解はありません。単価4,000円ほどで繁盛している院も、1万円を超える院もあります。この記事の8つのステップで、自院の価値と下限の料金、近くの院の料金から決めましょう。
一度決めた料金は変えてもいいですか?
変えて構いません。価値が高まれば、料金を上げることも検討しましょう。上げるときは、理由を価値の中身とあわせて伝えることが大切です。
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